お金の寿命の伸ばし方|残高で考えるかぎりゴールは毎年逃げていく
通帳の残高を見て、少しだけ安心する。
その3秒後には、また不安になっている。
去年より増えてるのに、なんで安心できないんだろう
増えているのは確かなのに、安心が長続きしない。ここを不思議に思ったことがある人は多いと思います。
いくら貯めれば安心なのか。この問いに、はっきり答えてくれる人はいません。
3,000万円と言う人もいれば、5,000万円と言う人もいる。老後2,000万円という言葉もありました。
でも、その金額に届いた人が安心しているところを、僕は見たことがありません。
先に結論を書いておきます。答えが出ないのは、金額が足りないからではありません。
正直に書くと、僕は新NISAもiDeCoもまだやっていない側です。ただ、34歳で独立して36歳で会社を潰しているので、一度お金を失ったことだけはあります。
- 「いくら貯めれば安心か」に答えが出ない理由が、金額の問題ではないと分かる
- 自分のお金があと何年もつのかを、その場で概算できるようになる
- お金・体・役割という3つの期限のうち、どれが先に来るかを考えられるようになる
- 貯めるのをやめずに、使う枠だけを先に決める考え方が手に入る
「いくら貯めれば安心か」に、なぜ答えが出ないのか

この章では、答えが出ない理由が金額ではないことを先に確認します。ここを取り違えたままだと、貯めても貯めても同じ場所に戻ってきます。
3,000万円と言われても、安心した人を見たことがない
金額の目標は、達成した瞬間に次の心配が始まります。
- でも施設に入るとしたら足りないかもしれない
- でも親の介護が重なったら分からない
- でも物価がこのまま上がったら意味がない
どれも間違っていません。だからこそ、いつまでも終わりません。
金額の目標は、達成しても不安が消えない構造をしている
理由はシンプルで、残高には「終わり」がないからです。
残高は、いくらになっても「もう少しあれば」と言える数字です。上限が決まっていないものを目標にすると、達成の判定が永久に下せません。
試験の点数なら100点で終わりますが、貯金に満点はありません。
足りないのは金額ではなく、「いつまでに、何に使い終わるか」
ここが今日の入口です。
安心は、金額が大きいことから来るのではなく、使い切る見通しが立っていることから来ます。
「いくら貯めるか」は終わりのない問い。「いつまでに何に使うか」は答えの出る問い。同じお金の話でも、問いの形がまったく違います。
だから金額を追いかけている限り、どれだけ貯めても着地しません。

いくら貯めるかではなく、いつ何に使うか。順番が逆でした
残高で考えると、ゴールは毎年逃げていく

前の章で、残高には終わりがないと書きました。この章では、それがなぜ年々つらくなるのかを見ていきます。
物価が上がると、去年の目標額は今年の目標額ではない
去年決めた「3,000万円あれば安心」は、物価が上がった時点でもう同じ意味を持ちません。
資産を預貯金だけに固定しておくこと自体が、購買力が目減りするという実質的なリスクになります。現金は減っていないのに、買えるものが減っていくという形で目減りします。
つまりゴールのほうが毎年移動しています。走っても追いつかないのは、当たり前です。
だから「もう少し貯めてから」が永遠に続く
旅行も、道具も、人に会いに行くことも、「もう少し落ち着いてから」と先送りする。
落ち着いてからって、いつなんでしょうね
落ち着く日は来ません。ゴールが逃げ続けているからです。
先送りしたものの多くは、なくなったわけではなく「まだ買っていないだけ」の状態で残り続けます。予定にも入っていないので、残高からも見えません。
見えないものは、いつまでも順番が回ってきません。
僕も一度、お金を失っている側です
34歳で独立して、36歳で会社を潰しました。
経緯そのものはこの記事の主役ではないので、1つだけ書きます。

減ったこと自体より、そのあとが分からなかったのがきつかったです
そのとき分かったことが1つあります。
金額そのものより、「何のために持っているのか」が決まっていないと、減ったときに立て直す方向すら分からなくなる。
減ること自体より、減った先に何があったのかを自分で説明できないことのほうがきつかったです。
「お金の寿命」とは何か——残高ではなく期間で見る

ここから見方を変えます。金額ではなく、期間で考えるとどうなるか。これがこの記事の中心になる考え方です。
お金の寿命=手持ちの資産が、あと何年もつか
残高が「いくらあるか」なら、寿命は「あと何年か」です。
2つの見方の違い 残高で見る:3,000万円ある 寿命で見る:あと32年もつ
同じ状態を指しているのに、寿命で見たほうだけ「終わり」があるのが分かると思います。
終わりがあるものは、判定ができます。だから安心にたどり着けます。
同じ2,000万円でも、寿命はまったく違う
具体的な数字で見てみます。
2,000万円をどう扱うかで変わる寿命 ただ取り崩す:毎月5万円(年60万円)で、約33年(98歳頃)に枯渇 運用しながら取り崩す:年80万円(月約6.7万円)を受け取りながら、100歳時点でも元本を維持できる可能性が高い
金額はどちらも2,000万円で同じです。違うのは扱い方だけ。
受け取る額は増えてるのに、長く持つほうが有利になるの?
そうなんです。ここが直感と逆なので、多くの人が取り崩しの設計を後回しにします。
4%ルールの中身は、別の記事にまとめてあります
いま出てきた「運用しながら取り崩す」の根拠になっているのが、4%ルールと呼ばれる考え方です。
資産残高の4%を毎年取り崩して、残りを株式50%・債券50%で運用し続けた場合、30年後に資産が枯渇していない確率は約96%になる、という米国トリニティ大学の研究に基づいた考え方です。
ここで1つ、はっきり書いておきます。
ここで言う「運用しながら」は、値動きのある商品を持ち続けるということです。運用には元本割れ(投資したお金が、元の金額を下回ること)の可能性があります。上の約96%という数字も過去のデータに基づく試算であって、将来を保証するものではありません。
そのうえで、取り崩しの具体的な手順は、この記事の担当ではありません。別の記事に3ステップでまとめてあるので、そちらを見てください。
この記事で扱うのは、その手前です。そもそも、いつ何に使うのかのほう。
自分のお金の寿命を、いまその場で出してみる

考え方が分かったら、次は自分の数字です。この章は読むだけで終わらせず、手元に紙かスマホのメモを1つ用意してください。3分で終わります。
必要なのは3つの数字だけ
- 1つ目:いま持っている資産の合計(預金+投資)
- 2つ目:1年に使う金額(月の支出 × 12。だいたいでいい)
- 3つ目:運用するかどうか
正確でなくて大丈夫です。ここで欲しいのは正解ではなく、桁の感覚です。
計算してみる
運用しない場合は、割り算1回で出ます。
運用しない場合 資産の合計 ÷ 1年に使う金額 = お金の寿命(年) 例:2,000万円 ÷ 60万円 = 約33年
さきほど見た数字と同じ形です。年金などが入ってくる人は、1年に使う金額から差し引いてください。
出た年数を、自分の年齢に足す
45歳の人が33年なら、78歳です。

ここで初めて、自分の数字として不安の形が見えます
漠然と不安だったものが、78という数字1つになります。
この数字は当たりません。支出は変わるし、収入も変わります。それでも「78」と書いてあるほうが、「なんとなく不安」より扱いやすい。当てるための数字ではなく、考えるための取っかかりです。
足した数字が、平均寿命を超えているか
比較する相手を置きます。
厚生労働省の「簡易生命表」によると、日本人の平均寿命は男性81.05歳・女性87.09歳です。
超えていれば一安心、超えていなければ対策が要る。
……と、ここで終わる記事が多いのですが、この記事はここで終わりません。
本当の問題は、この計算が「お金の寿命だけ」を見ていることのほうにあります。
寿命は3つある。お金・体・役割

ここがこの記事でいちばん伝えたいところです。数えるべき期限は1つではありません。3つあります。
1つ目|お金の寿命
さきほど計算したものです。あと何年もつか。
これは唯一、数字で正確に出せる寿命です。だから多くの人がここだけを見ます。見えるものだけを見てしまう、というのは自然なことです。
測れるものだけを管理していると、測れないものが手つかずのまま残ります。家計でも仕事でも、同じことが起きます。
2つ目|体の寿命——正確には「自分で動ける期間」
平均寿命と、自分で自由に動ける期間は同じではありません。
ここは信頼できる出典を示せる数字がないので、あえて年数は書きません。ただ、はっきりしていることが1つあります。
「あとで使おう」と思っているものの多くには、使えなくなる期限があります。
長時間の移動を伴う旅行、体を使う趣味、久しぶりに人に会いに行くこと。どれも、お金があれば必ずできるとは限りません。
お金は残っても、その頃には行きたい場所に行けないかもしれないんですね
3つ目|役割の寿命——誰かに必要とされている期間
これがいちばん見落とされます。
会社での役職も、子どもの世話も、いつか終わります。終わったあとの時間は、たいてい想像より長い。
役割が終わったあとに何にお金を使うのかは、役割が終わる前に決めておかないと決められません。役割が終わった直後は、判断そのものが鈍くなるからです。
この3つのうち、どれがいちばん先に来るか
並べてみます。
- お金の寿命:計算で出せる。伸ばす方法もはっきりしている
- 体の寿命:正確には測れない。ただし後ろにはずらせない
- 役割の寿命:自分では決められないことが多い
伸ばす努力ができるのは、3つのうちお金の寿命だけです。
だから僕たちは、そこばかり伸ばそうとします。ところが実際に先に来るのは、たいてい残り2つのほうです。
その結果として起きるのが、「人生で一番お金を持っているのが、いちばん使えない時期」という状態です。
貯めるのをやめずに、使う枠だけを先に決める

ここまで読んで「じゃあ使えばいいのか」と思った人へ。そういう話ではありません。貯めるのはやめなくていいです。決めるのは枠だけです。
削る側の話は、もう十分やってきた
固定費を見直して、保険を整理して、家計簿をつけて。
削るのはもうやったよ。これ以上どこを削ればいいのか分からない
そうですよね。削る側はすでに限界まで来ている人が多いと思います。
ここからさらに削ろうとすると、削る対象が生活の質そのものに移ります。効果は小さいのに、しんどさだけが増える領域です。
だから今日の提案は、削る話ではありません。使う側に枠を作る話です。
枠は3つでいい
細かく分けると管理できなくなるので、3つにします。
- 1つ目:生活の枠(毎月の暮らしに使う)
- 2つ目:守りの枠(病気・介護・失業など、想定外に備える)
- 3つ目:体験の枠(行きたい場所、会いたい人、やってみたいこと)
多くの家計に、3つ目がありません。あっても「余ったら」という扱いになっています。
余ったら使う、という置き方をすると、体験の枠は永遠に使われません。余りは毎年、次の不安に吸い込まれるからです。
金額の決め方と、実際に3つへ分ける手順は、この記事ではなくnoteのほうに書いています。ここでは「3つに分ける」という方向まで。
体験の枠だけは、期限つきで置く
1つだけ、置き方に条件があります。
体験の枠には「いつまでに使う」を付けます。体の寿命が後ろにずらせない以上、期限のない体験予算は、実質ゼロ円と同じだからです。
まだやっていない僕が、それでも1つ決めていること
正直に書きます。僕は新NISAもiDeCoもふるさと納税も、まだやっていません。
ふるさと納税は調べてみて、率直に「使わないと損だな」と思いました。返礼品が魅力的すぎるのと、日用品もあることを知らなかったのが大きかったです。iDeCoについても「使った方がいいな」とは思っています。やっていないだけです。
ただ、投資そのものが未経験というわけではありません。株式で暴落を経験したことがあります。
そのとき僕は、画面を見ないようにして半年ほど持ち続けて、多少戻ってきたところで売りました。

売った理由は、怖かったからではありません。待ち続けるのに疲れたからです
そして売った直後に思ったのは「まだ持っていてもよかったかもしれない」でした。後悔とまでは言えない、自分の判断に納得しきれていない感じです。
使途を先に決める本当の理由は、資産を守るためというより、あとから自分の判断に納得できるようにするためです。
決めていなかったから、僕はあのとき納得できませんでした。
使い方の設計で、やってはいけない3つ

最後に注意点です。ここは制度の話が入るので、2026年9月時点の情報として読んでください。制度は変わります。
1つ目|必要になってから、全部売って現金にする
いちばん多い失敗です。
保有している投資信託を一度に全額売却して現金化すると、その後のインフレで現金の価値が目減りし、資産寿命が急激に縮みます。正解は、運用を続けながら必要分だけを計画的に取り崩すことです。
具体的な手順は、さきほど紹介した出口戦略の記事にあります。
2つ目|税金を減らすことだけを目的にする
節税は手段であって目的ではありません。ここを取り違えると、逆に手残りが減ります。
- iDeCoを年金形式(分割)で受け取ると、所得区分は雑所得になる
- 雑所得は国民健康保険料や介護保険料の算定基礎に含まれる
- 公的年金等控除の枠(65歳以上は年110万円)を超えると、翌年の社会保険料が上がる
税金を減らした結果、社会保険料が増えるという形で、手残りが逆転することがあります。
3つ目|受け取る順番を確認しないまま決める
制度の改正が重なっているので、ここは特に注意が要ります。
- 2026年1月1日:退職所得控除の重複調整が「5年ルール」から「10年ルール」へ延長
- 2026年12月:iDeCoの加入可能年齢が65歳未満から70歳未満へ
- 2026年12月:企業年金のない会社員の拠出上限が月2.3万円から月最大62,000円(年74.4万円)へ
1年のうちに2回、しかも受け取り方に直接効く部分が変わっています。
知らずに順番を決めてたら、税金が変わってたかもしれないってこと?
その可能性があります。
ここに書いた制度の内容は2026年9月時点のものです。効果や税額は人によって変わりますし、制度自体も変わります。実際の受け取り方を決めるときは、必ず最新の情報とご自身の状況で確認してください。
まとめと、次の一歩

長くなったので、いちばん大事なところだけ置いておきます。
「いくら貯めれば安心か」に答えが出ないのは、金額が足りないからではなく、使い終わる期限を決めていないからです。
そして数えるべき期限は3つありました。お金、体、役割。伸ばせるのはお金だけで、先に来るのはたいてい残り2つです。
- 3つの数字(資産額・1年に使う金額・運用するかどうか)を書き出す
- 割り算1回で、自分のお金の寿命を出す
- 出た年数を今の年齢に足して、紙に書いておく
全部やらなくて大丈夫です。まずは3つの数字を書き出すところまでで十分です。
そのあと、3つの枠(生活・守り・体験)を実際にどう作るか。金額の決め方、体験の枠に期限を付けるやり方、そして受け取り方の順番までを、手順としてまとめました。この記事で「期限を決める」と決めた人が、そのまま自分の数字を入れて使える形にしてあります。
▶ 40代のお金の寿命|いつ・いくらまで使えるかを1回の割り算で出す
通帳を見て不安になるのは、残高が少ないからではありません。終わりが見えていないからです。まずは割り算1回、してみてください。
