「新NISA、とりあえず積立は始めた」——ここまでは、多くの人ができています。けれど「そのお金を、いつ・どうやって使うか」まで決めている人は、驚くほど少ないのが実際のところです。

老後にお金が足りなくなる人と、100歳まで残る人を分けているのは、積立額ではなく「崩し方」です。

しかも、いちばんやりがちな「必要になったら全部売って現金にする」が、資産寿命をもっとも縮めてしまう選択でもあります。

この記事では、米国の研究をもとにした取り崩しの目安と、今日メモに書ける「3つの箱」の分け方を、順番に整理します。積立の設定は終えたのに、出口だけ決めずにいた頃の話も交えて解説するので、気になる項目から読み進めてください。

この記事で分かること
  • 新NISAで「出口の話」だけが出てこない理由
  • 「必要になったら全部売る」が資産寿命を縮める仕組み
  • 米国の研究に基づく取り崩しの目安「4%ルール」の中身
  • お金を時間軸で分ける「3つの箱」の作り方と年齢別の比率
  • 新NISAで比率を調整するとき、売却してはいけない理由
目次
  1. 新NISAは「積立の入口」ばかりで、なぜ出口の話が出てこないのか?
    1. 入口の情報は山ほどあるのに、出口の情報だけが見つからない
    2. 出口を決めていないと、暴落の日に「全部売る」以外の選択肢が消える
    3. この記事のゴールは、お金の状態を「青信号」に変えること
  2. 「必要になったら全部売って現金にする」は、なぜ危険なのか?
    1. 「もう少し考えよう」で、3つの問いを何年も先送りにしていた
    2. 不安の中身は、実は2つしかなかった
    3. 現金は安全に見えて、持っているだけで買えるものが減っていく
    4. 正解は「運用を続けながら、必要な分だけ計画的に取り崩す」
  3. 「4%ルール」とは何か?本当に資産は持つのか?
    1. 4%ルールの中身——「資産の4%ずつ」を、運用を続けながら取り崩す
    2. 2,000万円で比べると、差がはっきり出る
    3. ただし、この数字をそのまま日本に当てはめてはいけない
    4. この記事で使っている数字の出典と時点
  4. 資産を「3つの箱」に分けるとは、具体的にどうすることか?
    1. 短期の箱:1〜3年分の生活費は、増やさずに守る
    2. 中期の箱:4〜7年先のお金は、値動きの穏やかな場所へ
    3. 長期の箱:8年より先のお金は、運用を続ける
    4. 年齢が上がるほど、株式の比率を下げていく
    5. 新NISAで比率を変えるとき、売ってはいけない
  5. 40代の今、出口を決めておくべき理由は?
    1. 暴落は予告なく来る。だからルールを先に決めておく
    2. 「10年以上は積み立てるだけ」——入口だけは決めていた
    3. 40代に残っている時間は、売らずに比率を寄せられる長さ
  6. まとめ:今日決めるのは、たった2つだけ
    1. 決めるもの①:毎年いくら取り崩すか(率)
    2. 決めるもの②:3つの箱に、それぞれいくら入れるか
    3. それでも「決められない」と感じたときは

新NISAは「積立の入口」ばかりで、なぜ出口の話が出てこないのか?

積立の設定は終わったのに、なぜか安心しきれない。その落ち着かなさの正体を、この章ではっきりさせます。読み終わるころには、あなたが不安なのは知識が足りないからではなく、まだ決めていないことが1つだけ残っているからだと分かるはずです。

入口の情報は山ほどあるのに、出口の情報だけが見つからない

「新NISAの始め方」で検索すれば、答えは無限に出てきます。つみたて投資枠と成長投資枠の違い、オルカンとS&P500のどちらを選ぶか、毎月いくら積み立てるか。どれも丁寧に解説されていて、その通りにやれば設定は完了します。

ところが「新NISAの終わり方」を調べようとすると、急に情報が薄くなります。

まさ

始め方はいくらでも出てくるのに、使い方が出てこないんですよね…

のぶ

そうなんです。実はこれ、あなたの検索が下手なわけではありません。

理由ははっきりしています。新NISAという制度が、出口を決めていないからです。

旧NISAには非課税で持てる期間に区切りがありましたが、新NISAでは非課税保有期間(税金がかからないまま持ち続けられる期間のこと)が無期限になりました。つまり制度の側は「いつ売ってもいいですよ」としか言っていないのです。

期限がないということは、誰も「そろそろですよ」と教えてくれないということ。

学校の卒業式のように、向こうから終わりが来てくれる仕組みではありません。出口だけは、自分で決めて自分で線を引かないと、永遠に空白のまま残り続けます。

非課税保有期間が無期限になったのは、新NISAの大きなメリットです。ただしそれは「急いで売らなくていい」という自由であって、「決めなくていい」という意味ではありません。自由と放置は別物です。

出口を決めていないと、暴落の日に「全部売る」以外の選択肢が消える

決めていないことの本当の怖さは、平時には表に出てきません。困るのは、株価が大きく下がった日です。

出口を決めている人は、下がった日にやることが決まっています。「この箱からは出さない」で終わり。判断する必要がないので、迷いようがありません。

一方、決めていない人はその日に初めて考え始めます。しかも、値下がりの真っ最中に。

人は損をしている最中に、まともな判断ができません。頭では「長期投資だから待てばいい」と分かっていても、目の前で数字が減っていくと「これ以上減る前に、全部現金に戻したい」という気持ちのほうが勝ちます。

そして選択肢が1つしかない状態で選んだ「全部売る」が、あとで効いてきます。売った瞬間から、そのお金は物価上昇(インフレ = 同じ1万円で買えるものが減っていくこと)に対して無防備になるからです。

「暴落が怖いから、自分は投資に向いていないのかもしれない」——そう感じたことがある人ほど、この記事は最後まで読む価値があります。怖さの原因は性格ではなく、決めていないことにあります。決めた人は、同じニュースを見ても手が止まりません。

この記事のゴールは、お金の状態を「青信号」に変えること

お金の状態は、信号の色で考えると分かりやすくなります。

信号状態
赤(危険)貯金がほぼゼロ、または毎月の固定費や支出を把握していない
黄(注意)貯金はあるが、インフレに無防備で、固定費削減の余地も放置している
青(安全)生活防衛資金があり、支出が自動でシステム化され、かつ運用の出口戦略を持っている

注目してほしいのは青の条件です。貯金があるだけでは青になりません。 出口戦略を持っていて初めて、青にたどり着きます。

積立を始めた時点で、あなたはすでに赤を抜けています。残っているのは黄から青への最後の一歩、つまり「出口を決めること」だけです。ゼロからのやり直しではありません。

この記事を読み終えたとき、あなたが手にしているのは次の2つです。

  • 毎年いくらずつ取り崩すか、というの目安
  • お金を「いつ使うか」で分けた、3つの箱の中身

この2つが決まると、暴落のニュースが流れても口座を開かなくて済むようになります。見なくていいというより、見る必要がなくなるという感覚に近いです。

この章のまとめ
  • 新NISAは非課税で持てる期間が無期限。だから制度の側は出口を決めていない
  • 出口を決めていないと、暴落の日に「全部売る」以外の選択肢が消える
  • 貯金があるだけでは黄信号。出口戦略を持って初めて青になる

「必要になったら全部売って現金にする」は、なぜ危険なのか?

結論から言うと、全額を現金にした瞬間から、そのお金は物価上昇のぶんだけ静かに目減りしていきます。この章では、多くの人が「安全策」だと思っている全額現金化が、実は資産寿命をいちばん縮める選択になってしまう理由を、順を追って見ていきます。

「もう少し考えよう」で、3つの問いを何年も先送りにしていた

積立の設定を終えたあと、決めなければいけないことが3つ残っていました。

ずっと後回しにしていた3つの問い
  • いつまで積み立てるのか
  • どの時期から使い始めるのか
  • まとめて売却するのか、少しずつ売却していくのか

正直に書くと、これは「分からなかった」のではありません。後回しにしていたのです。

調べれば答えの手がかりくらいは出てきたはずなのに、なんとなく「まだ先の話だから」と思って、そのまま何年も置いていました。積立の設定さえ終われば、大事なことはもう済んだような気になっていたからです。

ひかり

分かります…積立の設定を終えた日って、なぜかすごく安心しちゃうんですよね。

この感覚に心当たりがあるなら、あなたは今、当時と同じ場所に立っています。そしてそれは、決して珍しいことではありません。

不安の中身は、実は2つしかなかった

「なんとなく不安」と言葉にしていたものを、あとから分解してみたら、正体は2つの問いでした。

  • 売却して現金にしたいときに、もし暴落していたら?
  • このまま積み立てをしていたら、積み立てていた金額より少なくなるのでは?

この2つです。漠然としたモヤモヤに見えて、中身ははっきりした形をしていました。

そして厄介なのは、この2つの不安に対して、いちばん手っ取り早く見える答えが「じゃあ、下がる前に全部売って現金にしておけばいい」だということです。

現金にしておけば安全、という発想。ここが最大の落とし穴です。

現金は安全に見えて、持っているだけで買えるものが減っていく

現金の残高は、通帳を見るかぎり減りません。だから安全に感じます。けれど減っていくのは金額ではなく、そのお金で買えるものの量のほうです。

たとえば物価が年率2%で上がり続けた場合、預貯金として置いておいた現金の価値は、10年後には約18%目減りする計算になります。金額は1円も減っていないのに、買えるものは2割近く減っている。これがインフレ(物価が上がって、同じ1万円で買えるものが減っていくこと)の正体です。

数字が動かないので、損をしている実感がまったくありません。株価の下落は目に見えて痛みを感じますが、インフレによる目減りは通帳を見ても気づけない——これが「現金は安全」という思い込みが生まれる理由です。

つまり、暴落を避けるつもりで全額を現金に戻すという行動は、「目に見える減り方」を避けるかわりに、「目に見えない減り方」を選んでいることになります。

まさ

守ったつもりが、別の減り方に乗り換えていただけということですか…

のぶ

そうなんです。しかも運用をやめた時点で、増える側の手段も手放しています。

正解は「運用を続けながら、必要な分だけ計画的に取り崩す」

ここまでを踏まえると、進む道は1つに絞られます。全額を売って現金化するのでもなく、値下がりに怯えながら何も決めないのでもなく、運用は続けたまま、使う分だけを計画的に取り崩していくという形です。

運用を続けるというのは、リスクを取り続けるという意味ではありません。インフレに対抗する手段を手元に残しておく、という意味です。全部売った瞬間に、その手段だけがなくなります。

そして、この「必要な分だけ」をいくらに設定すればいいのかについては、ちゃんと目安になる考え方があります。感覚で決めるものではありません。

この章のまとめ
  • 後回しにしていた3つの問いは「いつまで積み立てるか」「いつから使うか」「まとめて売るか少しずつ売るか」
  • 不安の正体は「売りたいときに暴落していたら」「積み立てた額より少なくなるのでは」の2つ
  • 全額現金化は、目に見える減り方を避けて、目に見えない減り方を選ぶ行動
  • 正解は運用を続けながら、必要な分だけ計画的に取り崩すこと

「4%ルール」とは何か?本当に資産は持つのか?

「必要な分だけ取り崩す」と言われても、その「必要な分」をいくらにすればいいのかが分からなければ動けません。この章では、世界的に使われている取り崩しの目安と、その根拠になっている研究を紹介します。同時に、この数字をそのまま鵜呑みにしてはいけない理由もはっきり書きます。

4%ルールの中身——「資産の4%ずつ」を、運用を続けながら取り崩す

4%ルールとは、毎年、資産残高の4%を取り崩しながら、残りは運用を続けるという方法です。

もとになっているのは、米国トリニティ大学の研究です。この研究では、株式50%・債券50%(債券 = 国や企業にお金を貸して利息を受け取る、値動きが穏やかな資産のこと)の組み合わせで運用を継続した場合、30年後に資産が枯渇していない確率は約96%と報告されています。

4%ルールの3つの前提
  • 毎年取り崩すのは「資産残高の4%」であって、決まった金額ではない
  • 残りの資産は運用を続ける(全額を現金にしない)
  • 運用の中身は株式50%・債券50%という組み合わせが前提になっている

見落とされやすいのが2つ目と3つ目です。「4%だけ覚えて、運用はやめる」では、この研究の前提から外れてしまいます。 4%という数字が成り立っているのは、残りが運用され続けているからです。

ひかり

4%って数字だけ有名ですけど、セットの条件があったんですね。

2,000万円で比べると、差がはっきり出る

言葉だけだとピンと来ないので、2,000万円を例に並べてみます。

崩し方受け取り額資産がどうなるか
ただ取り崩す月5万円(年60万円)約33年、98歳頃に枯渇
NISAで運用しながら4%ルール年80万円(月約6.7万円)を非課税で100歳時点でも元本を維持できる可能性が高い

同じ2,000万円です。それなのに、受け取れる金額は月5万円と月6.7万円で、多く受け取っているほうが長く持つという逆転が起きています。

差を作っているのは金額の大きさではなく、運用を続けているかどうかです。

上の段は、貯金を切り崩していく形です。減った分は戻ってきません。下の段は、運用による増加分の範囲内で受け取っているイメージなので、元本そのものには手をつけずに済む可能性が残ります。

表の「98歳頃」は、逆算すると65歳から取り崩しを始めた場合の年数(約33年)にあたります。開始年齢が早ければ、枯渇する時期も同じだけ前倒しになります。

ただし、この数字をそのまま日本に当てはめてはいけない

ここは正直に書きます。4%ルールは万能ではありません。

4%ルールを扱うときの注意点

  • これは米国のデータに基づく研究であり、日本の物価・税制・為替がそのまま同じ結果になるとは限りません
  • 「約96%」は過去のデータから算出された確率であり、将来を保証するものではありません
  • 投資である以上、元本割れの可能性は常にあります。運用結果には個人差があります
  • 取り崩しを始める時期が暴落と重なった場合、結果は研究の平均像から大きくずれることがあります

それでも4%ルールを紹介するのは、「いくら取り崩すか」を感覚で決めないための出発点として役に立つからです。3%に下げてもいいし、状況に応じて途中で見直してもいい。大事なのは、数字を持たないまま暴落の日を迎えないことです。

まさ

絶対に安全な正解、ではないということですね。

のぶ

はい。決めていない状態から、見直せる基準を持つ状態へ移るための数字です。

この記事で使っている数字の出典と時点

判断の材料になる数字なので、どこから来た数字かを明記しておきます。

数字の出どころ
  • 4%ルール(株式50%・債券50%/30年後に枯渇していない確率 約96%)… 米国トリニティ大学の研究
  • 2,000万円の取り崩しシミュレーション(月5万円で約33年/運用継続+4%で年80万円)… 上記の考え方に基づく試算
  • いずれも2026年時点で参照した内容です。制度や税制は改正されるため、実行前に最新の情報を確認してください
この章のまとめ
  • 4%ルールは「資産の4%を取り崩しながら、残りは運用を続ける」方法
  • 株式50%・債券50%で運用を継続した場合、30年後に枯渇していない確率は約96%と報告されている
  • 2,000万円なら、ただ崩すと約33年で枯渇。運用しながら4%なら月約6.7万円を受け取りつつ元本が残る可能性
  • ただし米国の研究であり、将来を保証するものではない。元本割れのリスクは常にある

資産を「3つの箱」に分けるとは、具体的にどうすることか?

取り崩す率が決まっても、「どこから出すか」が決まっていないと、結局は暴落の日に迷います。この章では、資産を「いつ使うか」の時間軸で3つに分けるやり方を、そのままメモに書き写せる形で整理します。難しい商品選びの話ではありません。分けるだけです。

短期の箱:1〜3年分の生活費は、増やさずに守る

1つ目の箱に入れるのは、これから1〜3年のあいだに使う生活費です。

置き場所は、普通預金・定期預金・個人向け国債といった元本保証(預けた金額が減らないことが約束されている状態のこと)の場所。ここは増やす場所ではありません。

この箱の役割は、暴落したときの盾になることです。

株価が下がっている最中でも、生活費をこの箱から出せるなら、値下がりした株式を売らずに済みます。逆にこの箱がないと、いちばん安いタイミングで売るしかなくなります。

中期の箱:4〜7年先のお金は、値動きの穏やかな場所へ

2つ目の箱は、4〜7年先に使う予定のお金です。

ここに向くのは、国内外の債券ファンドや、バランス型投資信託(eMAXIS Slim バランスなど、複数の資産を最初から組み合わせてくれる商品のこと)といった、値動きが緩やかな低リスク資産です。

みさき

短期と長期の間って、何を入れればいいのか一番迷うところなんですよね。

この箱があると、短期の箱を使い切ったあとの受け皿ができます。短期の箱が1〜3年しか持たないので、その次の数年を支える中継ぎの役割です。

中期の箱は「増やす箱」と「守る箱」の中間です。株式ほど大きく増えませんが、そのぶん下がるときも緩やかなので、使う時期が近づいてきた資産の避難先として機能します。

長期の箱:8年より先のお金は、運用を続ける

3つ目の箱は、8年より先まで使う予定のないお金です。

ここは、全世界株式やS&P500に連動する投資信託(代表的なものに eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)や eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)があります)などで、運用を続ける形が一般的です。何を選ぶかは人によって変わるので、ここでは「長期の箱は運用を続ける」という役割だけ押さえてください。

非課税のメリットがいちばん大きく効くのもこの箱です。時間が長く取れるぶん、途中で下がっても回復を待つ余裕があります。

3つの箱に分ける本当の効果は、資産が増えることではありません。「今どの箱から出すべきか」が一目で分かるので、暴落の日に考えなくて済むことです。判断を減らすための仕組みだと考えてください。

ここまでを、そのままメモに書き写せる形にすると次のようになります。

いつ使うお金か置き場所
短期1〜3年以内普通預金・定期預金・個人向け国債(元本保証)
中期4〜7年先債券ファンド・バランス型投資信託
長期8年より先全世界株式・S&P500など(運用を継続)

年齢が上がるほど、株式の比率を下げていく

3つの箱に分けたら、次は全体の中で株式をどのくらい持つかです。目安は年齢によって変わります。

年代目安の比率
50代前半株式70〜80%
50代後半株式60% + 債券40%
60歳〜株式50% + 債券50%
65歳〜株式40% + 債券60%

年齢が上がるほど株式を減らすのは、下がったときに回復を待つ時間が短くなっていくからです。40代のうちは値下がりしても取り返す年数がありますが、取り崩しを始めたあとの下落は、そのまま受け取り額に響きます。

これはあくまで目安です。家族構成、退職金の有無、持ち家か賃貸か、公的年金の見込み額によって適切な比率は変わります。この表の通りにしなければいけない、という性質のものではありません。

新NISAで比率を変えるとき、売ってはいけない

ここが実務でいちばん間違えやすいところです。

比率を調整しようとして、増えすぎた株式を売って債券を買う——という方法を思いつきますが、新NISAではこれをやってはいけません。

新NISAは、売却しても非課税枠が復活するのは翌年以降です。

つまり売って買い直すと、その年の非課税枠を無駄に使ってしまいます。せっかくの枠を、比率の調整だけで消費することになります。

正しいやり方は、売らずにこれから買う分の配分を変えることです。

売らずに比率を寄せる手順
  1. 証券会社の管理画面で、目標の比率と今の比率のズレを確認する
  2. ズレが5%以上あれば調整の対象にする
  3. 比率が高くなりすぎた資産の積立を、一時停止するか減額する
  4. 比率が足りない資産に、毎月の買付を集中させる
  5. この設定のまま6〜12ヶ月続ける

この方法なら、1円も売らずに比率が目標へ近づいていきます。時間はかかりますが、40代なら取り崩し開始まで十数年あるので、急ぐ必要がありません。 時間を味方につけられる年代のうちに始めておくことに意味があります。

この章のまとめ
  • 短期(1〜3年)は元本保証、中期(4〜7年)は債券・バランス型、長期(8年超)は株式で運用継続
  • 短期の箱の役割は、暴落時に株式を売らずに済ませるための盾
  • 株式の比率は年齢が上がるほど下げる。50代前半70〜80%、65歳〜40%が目安
  • 新NISAでの比率調整は売却でやらない。新規買付の配分を6〜12ヶ月かけて変える

40代の今、出口を決めておくべき理由は?

「まだ先の話だから」と思うのは自然なことです。取り崩しを始めるのは20年近く先かもしれません。

それでもこの章を読んでほしいのは、出口の設計だけは、必要になってから決めるのでは間に合わないからです。理由は焦らせるためではなく、単純に時間の性質によるものです。

暴落は予告なく来る。だからルールを先に決めておく

株価が大きく下がる日は、カレンダーに書いてありません。

そして、その日に「売るか、持ち続けるか」を決めようとすると、判断は必ず感情に引きずられます。前の章で見たとおり、人は損をしている最中にまともな判断ができないからです。

平時に決めたルールは、暴落の日に意志の強さの代わりをしてくれます。

「今日は落ち着いていよう」と自分に言い聞かせるのは、意志の力を使う行為です。対して「短期の箱から生活費を出す」と決まっていれば、意志は要りません。ただ決めたとおりに動くだけになります。

メンタルを鍛えて暴落に耐えよう、という話ではありません。鍛えなくていい状態を、先に作っておくという話です。強い人が生き残るのではなく、決めてある人が動揺せずに済みます。

「10年以上は積み立てるだけ」——入口だけは決めていた

ここで正直に書いておきたいことがあります。

積立を始めたとき、「10年以上は積み立てるだけにする」というルールは決めていました。 途中で引き出さない、しばらくは増やすことだけを考える。そこははっきり決めていたのです。

決めていなかったのは、出口のほうだけでした。

決めていたこと/決めていなかったこと
  • 決めていた … 10年以上は積み立てるだけにする(入口の期間)
  • 決めていなかった … いつから使い始めるか、まとめて売るか少しずつ売るか(出口)

これに気づいたとき、少し見え方が変わりました。決められない人間だったのではなく、決めやすいところだけ決めて、決めにくいところが手つかずで残っていたのです。

ひかり

言われてみると、始めるときのことは決めた記憶があります…

おそらく、この記事を読んでいるあなたも同じ状態です。積立額も、銘柄も、続ける期間も、なにかしら自分で決めてきたはずです。空白なのは1か所だけ。

ゼロから設計をやり直す必要はありません。すでに決まっている部分の続きに、出口を書き足すだけです。作業量としては、そんなに大きなものではありません。

40代に残っている時間は、売らずに比率を寄せられる長さ

もう1つ、40代であることの意味があります。

前の章で、新NISAでの比率調整は売却ではなく新規買付の配分変更で行う、と書きました。この方法は1円も売らずに済むかわりに、目標の比率に近づくまで6〜12ヶ月かかります

仮に60歳の直前になってから比率を変えようとすると、この「売らずに寄せる」やり方では間に合わない可能性があります。間に合わなければ、非課税枠を削りながら売却で調整するしかありません。時間がないことが、選べる手段を減らします。

40代なら、60歳まで十数年あります。年に1回見直すとしても、十数回の調整ができる長さです。急いで一度に動かす必要はまったくありません。

まさ

今すぐ完璧に決めなくてもいい、ということですか?

のぶ

はい。決めた内容より、決めてある状態を作ることが先です。

出口の設計は、一度決めたら変えられないものではありません。生活が変われば見直せばいいし、率を3%に下げてもいい。大事なのは、暴落のニュースを見た日に初めて考え始める状態から抜け出しておくことです。

この章のまとめ
  • 暴落の日に決めようとすると、判断が感情に引きずられる
  • 平時に決めたルールは、意志の強さの代わりになる
  • 多くの人は「決められない」のではなく、決めやすい入口だけ決めて出口が空白になっている
  • 売らずに比率を寄せるには6〜12ヶ月かかる。40代にはその時間が十分に残っている

まとめ:今日決めるのは、たった2つだけ

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。最後に、この記事でやることを2つに絞ります。情報を全部覚える必要はありません。決めるのは2つだけです。

決めるもの①:毎年いくら取り崩すか(率)

金額ではなく、で決めます。「毎年60万円」ではなく「毎年、資産残高の4%」という決め方です。

率で決めておくと、資産が増えた年は受け取りも増え、減った年は自動的に受け取りも減ります。相場に合わせて勝手に調整されるので、自分で悩まなくて済みます。

4%がしっくりこなければ、3%から始めても構いません。数字の正しさより、「率で決めておく」という形のほうが大事です。あとから見直せます。

決めるもの②:3つの箱に、それぞれいくら入れるか

もう1つは、お金を「いつ使うか」で分けることです。

今日メモに書くこと
  1. 毎月の生活費 × 12〜36ヶ月 = 短期の箱に入れる金額
  2. 4〜7年先に使う予定の金額 = 中期の箱
  3. 残り = 長期の箱(運用を続ける)
  4. 全体の株式比率を年齢の目安と見比べて、ズレが5%以上なら買付の配分を変える

この4行がメモに書けたら、この記事の目的は達成です。金融機関に行く必要も、新しく何かを買う必要もありません。

暴落のニュースが流れても口座を開かなくなったら、出口の設計ができた合図です。

それでも「決められない」と感じたときは

ここまで読んで手順は分かったのに、なぜか手が動かない——そう感じる人もいると思います。

それは意志が弱いからではありません。出口を決めるという作業には、手順とは別の引っかかりがあります。 自分が年を取っていくことを、正面から見ることになるからです。

みさき

やり方は分かったのに、なんとなく後回しにしそうです…

その引っかかりの正体については、noteのほうにまとめました。この記事が「どうやるか」を扱ったのに対して、そちらは「なぜ、出口だけがずっと空白のまま残るのか」という心理の側の話です。

手順は分かった。でも、なぜか手が動かない——そう感じた方へ。

多くの人が出口だけを決められずにいるのには、はっきりした理由があります。そこを言葉にしておくと、この記事の手順が一気に実行しやすくなります。

積立の額は決めたのに、「いつ使うか」だけ決めていなかった